Stephen Cheng - Always Together (’67)
※これは2015年に別のところに書いたものを加筆修正したものです。
いい音楽はないものかといつものようにインターネットを徘徊していた時に見つけ、それ以来虜になっている1曲を紹介したいです。
STEPHEN CHENG - ALWAYS TOGETHER.wmv - YouTube
一聴してただのロックステディではない。それなりにジャマイカの60年代のシンガーについては知っているつもりだったのですが、もちろん聞いたことのない名前であるし、ジャマイカ人の声ではない。名前も声も中国人です。しかし演奏はジャマイカの一流ミュージシャンに間違いはなさそうです。
3分に満たないこの曲を聴き終える頃には完全に僕はヤラれてしまっており、しばらく過呼吸に。その日はこの曲ばかりを聴き続け、その後も事あるごとに聴き直してみたり、彼について調べてみたりレコードを探している。英語には明るくないが、今のところこんなことが分かりました。
まず、はじめにこのシングルがリリースされたSunshineというレーベルについて軽く触れます。60年代からのジャマイカ音楽ビジネスを語る上で欠かすことのできない人物Ronnie Nasralla (ロニー・ナズラーラ) が設立したBMNというレーベルの姉妹レーベルとして存在したのがこのシンプルすぎる白のラベルが印象的なSunshineです。(日本が世界に誇るジャマイカレコード専門店ダブストアのここのページにナズラーラについて詳しく書かれているのでぜひ)
そんなSunshineからのリリースなんだからジャマイカ録音であることには間違いなさそうで、バックを固めるのもBMN/Sunshineの周辺ミュージシャンに違いないでしょう。Byron Leeでは?なんていう推測もありました。
さらに、このシングルについて興味を持っている人はたくさんいて「こんなクールで100%ルードなロックステディ初めて聞いたぜ。Want!」なんていうコメントなんかも見られます。情報量は極めて少ないのですが、このシングルはトップクラスのレア盤で、Hard To Find。コレクターが血眼になって探す1枚であるようです。信憑性はないですが、ジャマイカ在住の華僑に配るために極めて少ない数 (50枚かそこら) のみがプレスされたなんていう話もあるくらいなので確かにレア盤なのでしょう。
実際現物は愚か、ネットに出品されているのさえ見たことがありません。原盤のリリースはおそらく67年。ちなみに2011年に一度リイシューされているようですがそれも現在は非常に高額となっています。*1
そしてStephen Chengについて。本名をStephen Chun-Tao Chengといいます。生まれは1923年、上海のようです。アメリカに渡りコロンビア大学でアートを専攻し卒業。
その後別の学校で今度は音楽を学んだようです。それからも彼は2012年に亡くなるまでアメリカに身を置き、シンガー・俳優・コンポーザーとして活躍、後にニューヨーク大学で東洋声楽の権威となり研究を続けたそうです。1枚のLPをリリースし、著書もあることが確認できました。
次にこの楽曲「Always Together」について。これは台湾のトラッド・ソングのようで、原題は「阿里山的姑娘」(Alishan Girl) といいます。台湾の国民的シンガー、顧媚 (Carrie Koo Mei) が最初に歌ったようで、その後もテレサ・テンなどを筆頭に様々なシンガーによって現代まで歌い継がれています。
年代を追うと、このSunshineからリリースされたシングルは彼が四十代中頃に録音したものであることがわかります。ここからのは僕の推測なのですが、東洋声楽の権威としてすでに名を馳せていた彼が、その活動の一環として台湾の伝統的フォーク・ソングと、当時ジャマイカで一番イケてた音楽ロックステディの融合を試みたのがこのシングルではないだろうか。
実際、当時のジャマイカにあったTop-Deckという名レーベルは、設立者がJustin Yapという中国系のジャマイカ人だったし、ジャマイカのミュージシャンたちも中国人に対し抵抗がなかったのかもしれません。当然彼は英語を喋ることができます。
もちろん他に何か理由があったのかもしれないし、彼は軽い気持ちでやっただけかもしれません。またはジャマイカへバカンスに行ったついでに遊びで録音しただけかもしれません。
とにかくこのシングル1枚のお陰でStephen Chengという偉大な声楽者、もといシンガーがいた事を知ることができてよかったです。
参考
- Stephen Cheng Obituary - New York, NY | New York Times
- Stephen Chuntao Cheng Discography at Discogs
- Blood and Fire • View topic - The mystery of Stephen Cheng's Always Together
- Stephen Chun-Tao Cheng
- BIzarre 60's Chinese-Jamaican Rocksteady Gem
- https://rateyourmusic.com/release/single/stephen-cheng-the-blues-busters/always-together-a-chinese-love-song-soon-youll-be-gone/
- Stephen Cheng* - Flower Drum And Other Chinese Folk Songs (Vinyl, LP) at Discogs
- Stephen Cheng? Who was he? ALWAYS... - Trojan Reggae Forum | Facebook
- Stephen Cheng / The Blues Busters - Always Together / Soon You'll Be Gone (Vinyl) at Discogs
- ノアルイズ・レコード 33/45/78rpm Records - Contents - Stephen C. Cheng - FLOWER DRUM AND OTHER CHINESE FOLK SONGS
- レゲエレコードコム | レゲエと黒人音楽の総合店ダブストア
- 心もよう-SkaのちRocksteadyところによりCalypso- Rock Steady
- 台湾民歌である、阿里山的姑娘(高山青)の歌は大好きです。 カラオケでも... - Yahoo!知恵袋
- Taiwan Folk Song 阿里山的姑娘 - YouTube
- Stephen C. Cheng & Sirat - Flower Drum Song (East China) (Stereo) - YouTube
*1:2016年にダブストアからリイシューされている。